ノンセクの看板を掲げて文フリに出るということ

 去年の夏頃のことだったと思う。私は、一つの物語を書き終えたところだった。

 私はまだモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、生きていた。ノンセクの私を受け入れてくれる彼とやっと出会えたのに、私はその彼と連絡が取れなくなっていた。彼は私のことなんて、もうどうでもいいんだろう。私も新しい人生を歩まないといけない。頭では充分理解していた。好きな人と身体の関係を持てないなんて、欠陥人間でしかない。けれど、彼はそれでもいいと言ってくれた。もう、その彼はここにいない。

 気が狂いそうだった私は、彼への思いをひたすら書いた。その原稿を前に私はかたまっていた。書き終われば昇華できると思っていたけれど、私はまだモヤモヤしていた。書いただけでは、まだ足らないのかもしれない。

 私がノンセクであることを隠して、ゼミでジェンダーを学んでいた大学生の頃、ノンセクの本を見つけたら、私はどんなに救われただろうか。就職活動をしながら、自分の将来を描けず、自分には欠陥があるのだと絶望した。友達の彼氏の話を聞きながら、心はいつも泣いていた。

 「ノンセクの私が考えていることを綴ります」気が付くと、私は文フリに応募して、サークルの紹介を書いていた。

 顔を出しても構わない。隠す必要なんてない。世間にノンセクだって公言してもいい。ただ、誰かに届けたかった。私の叫びを読んでほしかった。

 私もまだ悩んでいるけれど、私が書いたものが大学生の私にいつか届くかもしれない。そんな気がした。