ココナッツの香り

  風呂上がりにボディクリームを塗っていてると、ふいに泣きそうになる。ああ、そうだ。これはハワイのホテルでもらったものだ。ホテルの無駄に広いバスルームが思い浮かぶ。石鹸も何もかもココナッツの香りで気にいって、持って帰ってきた。

 膝にボディクリームを塗りながら、鼻水をすする。ああ、そうだ。この膝の傷は、去年、海ではしゃいだときに岩で切ったのだ。ココナッツの香りがふわりと立ち上り、海が目の前に広がってきた。

 去年の夏休みは一週間、ハワイ島コナに行って、海で遊び倒してきた。コナは本当に小さな町で、特にすることはない。毎日のんびりと街をぶらぶらして、食事はカフェでガーリックシュリンプやパンケーキを好きなだけ食べた。ピザをテイクアウトしたり、スーパーで寿司を買ってきて、炭水化物を気にせず食べる。

 町のどこを歩いても、海が近くて、町の人は親切でとても陽気だった。帰りは、日本の台風で帰れなくなり、屋根がないすけすけのオープンな空港で、くそ甘いけど美味しいシナモンロールと薄い緑茶で、飛行機が飛ぶのを待った。

 今年もあのハワイ島に行って、またコナの町でのんびりとしたい。そう思っていた。飛行機遅延のお詫びでクーポンをもらったのだ。ホテルまで予約していたけれど、私はたぶん夏になっても日本から出られない。

 ココナッツの香りが私をハワイに連れて行こうとしている。